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1.27河村哲二フォーラムの事後報告



■フォーラムの案内文書

1.27オンライン河村哲二・アメリカ経済フォーラムのご案内

●主催︰世界資本主義フォーラム

●この企画の趣旨︰

アメリカの覇権体制の危機が、米中関係に加えて、ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争の各方面で顕在化しています。アメリカは、国内においても、白人労働者がトランプの「アメリカ第一主義」を支持し、若者らがイスラエルのガザ地区非人道空爆に反対するなど、かつてない深刻な政治的亀裂が走っています。

こうしたアメリカの内外における政治的危機的状況の背景には、アメリカ経済の衰退があります。

①     軍産の巨大支出の固定化による財政赤字②リーマン危機後の空前のゼロ金利・通貨増発で企業・金融機関を救済したが、FRBの利上げが国債のデフォルト危機、銀行危機をもたらしている③対外赤字を支えてきた中国・産油国・日本のドル保有の削減・金準備の買い増しによって、ドルの還流メカニズムに異変が生じ、「国際決済通貨ドル」の地位が揺らいでいる。対ロシア経済制裁も、非ドル決済を増やしている。

戦後冷戦体制以来一貫して世界の覇権構造の一極となってきたアメリカの覇権体制[パクス・アメリカーナ]が現在どのような局面にあるか――世界資本主義の行方にとってもっとも重要な問題です。今回のフォーラムでは、まず、経済的要因から、見ていきたい。(世界資本主義フォーラム共同代表・矢沢国光)


テーマ:「パックス・アメリカーナ段階の変質局面Phase2とアメリカ」

●開催日時︰2024年1月27日(土)午後1時30分―4時30分

●開催方式︰ZOOMによるオンライン

●講師︰河村哲二(法政大学名誉教授、世界資本主義フォーラム顧問)

ホームページより[略歴]1951年群馬県生まれ。2005年4月より法政大学経済学部教授(経済理論学会代表幹事(2016年4月~)。博士(経済学)(東京大学)。[専攻]:理論経済学、アメリカ経済論、グローバル経済論。

 [著作から]︰現代アメリカ経済(有斐閣アルマ2003)/パックス・アメリカーナの形成―アメリカ「戦時経済システム」の分析(東洋経済新報社1995)/第二次大戦期アメリカ戦時経済の研究:「戦時経済システム」の形成と「大不況」からの脱却過程(御茶の水書1998)

 

講演要旨:前回(2021年9月25日)の世界資本主義フォーラム報告「バイデン下のアメリカ資本主義の歴史的位相――パックス・アメリカーナ段階の変質局面の視点から」のその後の展開を受けて、パックス・アメリカーナ段階の変質局面Phase2の現状と今後の展望について、主に次の3点から論じる。

1.     ポストグローバル金融危機・経済危機のアメリカの課題と中国のアメリカ覇権への挑戦―「ディグローバリゼーション」の趨勢と「グローバル成長連関の」変容

Ÿ  アメリカの「ジレンマ」

Ÿ  中国の経済成長戦略の転換(「双循環」)とアメリカ覇権への挑戦

Ÿ  アメリカによる中国の「隔離」戦略と「国内成長連関」の復活戦略

2.   COVID-19(コロナ)のグローバル・パンデミックの影響

Ÿ 「グローバル成長連関」への影響と「ディグローバリゼーション」の趨勢

3.   ロシアのウクライナ侵攻とその影響

Ÿ  パックス・アメリカーナ段階の変質Phase2の政治軍事的側面と「ディグローバリゼーション」

結びにかえてパックス・アメリカーナ段階の変質局面の現状と今後の展望

 

参考文献・資料:

1)  河村哲二世界資本主義フォーラム(2021年9月25日)報告資料「世界資本主義フォーラム研究会(20210925)報告資料配布用(v.1).pdf)

2)  河村哲二「グローバル資本主義と段階論―グローバル金融危機・経済危機の解明の理論と方法(Ⅰ)・(Ⅱ・完)」『経済志林』第87巻1・2合併号、2019年9月、51-86頁・87-147頁

3)  河村哲二「現代のインフレーションの段階論的解明――景気循環論アプローチ」経済理論学会『季刊経済理論』、第61巻1号、2024年4月刊行予定。

4)  河村哲二「グローバリゼーション/ディグローバリゼーションのダイナミズムと経済システムの変容――制度・組織革新とシステム形成の視点から」法政大学イノベーション・マネジメント研究センター『イノベーション・マネジメント』第22巻(2024年3月刊行予定)、第23巻(2025年3月刊行予定)。


■当日の経過

司会者による講師・企画趣旨説明の後、いつものように、前半と後半のあいだに10分間の休憩を入れて、河村先生に話してもらった。


■司会者の感想(矢沢国光)

講演は、

第一部「ポストグローバル金融危機・経済危機のアメリカの課題と中国のアメリカ覇権への挑戦―「ディグローバリゼーション」の趨勢と「グローバル成長連関の」変容」

第二部COVID-19(コロナ)のグローバル・パンデミックの影響

第三部ロシアのウクライナ侵攻など政治軍事的側面と「ディグローバリゼーション」

の三部構成であった。

河村先生のお話は、道具立てが大きくて、消化するのが難しい。そのせいか、第一部の「パクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナ」という(これまでの復習のはずの)原理論・段階論の説明に時間がとられて、第二部、第三部がやや駆け足になった。

[おかげで、個人的には、河村先生の「パクス・ブリタニカ、パクス・アメリカーナ」論という方法を復習する良い機会となった]

第三部では、予期した以上に国際政治の現況についての立ち入ったコメントがあり、パクス・アメリカーナのこれからを規定する諸要因が提出された。

アメリカ大統領選挙の行方が判明した時点で、続きをお聞きしたい。

[矢沢の個人的感想は、「参加者アンケート回答」に記す]


■質疑

●矢沢国光

スライド8の物価のグラフについて。第一次世界大戦後。インフレが続いています。インフレということは、通貨の価値が下がるということです。これは、イギリスの金本位制が国際的な金本位制であった時代が終わり、イギリスの中央銀行券であるポンドやアメリカの中央銀行券であるドルが国際決済通貨になった。その結果、ポンドやドルの(金に対する)価値が下がった、ということでしょうか。




▲河村

 ポンドやドルは国民通貨ですが、国際基軸通貨となった。第一次大戦前の国際基軸通貨であるポンドは、金本位制に基づいています。第二次大戦後の国際基軸通貨ドルは、1971年8月までは金の裏付けがありますが、それ以降は、金・ドル交換可能性は否定され、公式金価格はなくなっています。金のドル価格は上昇しています。金に対してドルの価値が下がっています。金は実物経済の集約点といってよいので、その点からすれば、ドルは減価していると言ってよいのはその通りです。しかし、第二次大戦、なぜ物価が上昇し続けてきているるのかは、また別の問題です。いずれにせよ、金本位制から国民通貨に変わった、ということではありません。


●土肥誠

1. 中国のパックス・アメリカーナへの挑戦について、中国も「グローバル成長連関」に組み込まれており、この中での資本蓄積を行ってきたといえるのであるが、中国の挑戦はどのような形になっていくのだろうか?

私見であるが、中国のアメリカへの挑戦で目に見えていることは、「一帯一路」で過剰資本の処理と広域経済圏の確立を目指しつつ「双循環」で中国の経済構造を内需中心に転換しつつ貿易も行っていくという中国の姿である。さらに、「一帯一路」により人民元決裁圏を広げようとしつつも、「一帯一路」の対象国はCIPSによる決済と同時にSWIFTでも決済しながら貿易を行うであろう。こうなると、中国のアメリカへの挑戦はアメリカを中心とする「グローバル成長連関」から無縁ではあり得ず、完全なデカップリングが不可能である中、中国の挑戦はかなり不安定なものとなるのではないだろうか?


▲河村

中国は、「双循環」というとき、グローバル成長連関は相当意識しています。「一帯一路」で人民元だけの決済圏をグローバルな規模でつくるというのは、相当難しい。「一帯一路」の出口は、中央アジアやインド、モンゴル・ロシアなど、いずれも民族問題等を抱え政治的に問題がある。また、アメリカは、中国をヨーロッパや日本など「グローバル成長連関」から切り離そうとしている。


●土肥誠

2.上のことと関連して、中国のアメリカへの挑戦は、「グローバル成長連関」の変容圧力をかわすためにとられる中国の政策と理解して良いか?

▲河村

  「グローバル成長連関」が変質しているところに、中国の対応の難しさがあるのではないか。かつてのように、「グローバル成長連関」に乗っかればよい、という具合に行かない。同時に、不動産バブルの崩壊や人口減の問題などがあり、内需連関の形成がうまくいかない。


●岩田昌征 ①

日本は、中国よりもずっと深くグローバル成長連関に組み込まれていたのに、なぜ30年間のデフレに陥ったのか?

▲河村

日本の産業は、グローバル成長連関の中で海外に出て行ってしまった。そのために、国内経済が疲弊した。ただ、個々の企業を見ると、家電やトヨタなどグローバルな事業で競争力のある企業も多数ある。「失われた30年」というのは、国民経済的にみた日本の話です。東京だけが膨張して、地方が疲弊した。


●岩田昌征 ②

日本の中に、資本に依拠する人たちと自ら労働するほかない人たちがいます。日本の経済は、グローバル成長連関で得をする人たちの意思で決まっている、とみてよいのか?

 ▲河村

 中央政府の官僚にはそこまでする力はない。構造的にそうなっている、ということだと思います。官僚もエコノミストも、構造に乗った政策しか出せていない。


●矢沢国光

コロナ下で、バイデン政権はかつてない大幅な財政支出をして、製造業の国内回帰やインフラ投資をしました。その結果、財政赤字も経常収支赤字も大幅に増えました。かつてはグローバル成長連関で、ドルが還流していましたが、これからもドルの還流は続くと考えてよいのか?


▲河村

   ドルが基軸通貨であり、ニューヨークがグローバルな決済センターとなっている限り、経常勘定の収支赤字は、まずはアメリカに自動的に環流する関係になります。その後のドル残高は、ニューヨークの金融ファシリティによって、アメリカ国債その他などの形で、アメリカ国内で運用されれば、アメリカにとどまります。なお、バイデン政権では、上院を共和党が抑えているので、財政拡大は、少ししかできていない。トランプ政権になったら、どうなるか、不透明。インフレによって、MMT(現代貨幣理論、財政赤字は無限に可能とする)のような財政政策は、できなくなっている。


●矢沢国光

2023年3月「シリコンバレーバンク」シグネチャーバンクが債務超過に陥って経営破綻の理由についてアメリカのメディアは、利上げによって価格が下落した債券の売却で損失が出て経営が悪化し、顧客からの預金の引き出しが相次いだことなどが原因だと報じています。こうした銀行危機をどうみますか?

▲河村

金融緩和に乗ってリスキーな融資をして破綻した、ということです。あまり広くは波及せず、全般的な金融危機に発展せず、軟着陸するという見通しです。


●矢沢国光

   もう一つ気になるのは、ロシアに対する経済制裁の結果、ドルの基軸通貨としての地位が低下しているのではないか、ということです。これまでドルを介さないと石油取引ができなかった。ところが、中国などがロシアの石油を、ドルを介さないで購入しています。


▲河村

   人民元決済やルーブル決済は、それほどは拡大していない。しかし最大の問題は、人民元やルーブルによる決済があっても、その他世界との取引においては、必ずドルを介して決済しないといけない、ということです。その意味でドル決済圏から逃れることはできないということです。国際決済通貨の多様化ということで、ドルの基軸通貨性は程度が上がっていると言ってもよいかもしれませんが、報告でも指摘したように、BISの資料でみると、国際為替取引でドルを介してのクロス取引がほぼ100%ちかくを占め、ドルの基軸通貨性は依然維持されています。


●蓼沼①

   ロシアに対する経済制裁を契機として、BRICSにトルコなどが加わって28か国が、BRICS通貨を、ドルに代わる国際決済手段として発行するという動きがあります。

▲河村

   アジア通貨危機のときも、アジアの決済圏を創ろうという動きがあったが、副次的なものでしかなかった。国際決済圏の構築は、金融ファシリティ(機構)とセットです。ドル決済は、SWIFTを含めてニューヨークに金融ファシリティがある。今回のBRICSの動きは、中国かインドが主導するにしても、金融ファシリティを創れるかどうか。目立つ動きとして、報道はすぐ飛びつくが、基軸通貨についての理解が足りないのではないか。


●蓼沼②

 冷戦終結後のアメリカのロシアに対する経済的対応をどうみたらよいか。アメリカは、ロシアをグローバル成長連関に引き込まなかったのではないか。

▲河村

   ソ連崩壊期の経過を見ると、ソ連経済の崩壊した1991-92年は、ちょうどグローバル成長連関のはじまりと重なっている。そのころはまだアメリカのロシアに対する経済的対応もはっきりしなかった。プーチンは、原油・天然ガス・その他資源の輸出をグローバル成長連関にのせて、ロシア経済を立て直した。それがプーチンの功績となっているといえます。






■参加者アンケート回答から

●土肥誠

感想:河村先生の理論は、資本主義世界を分析する際、大変に有効なものだと考えます。私の中国経済分析で先生の理論を使わせていただいていますが、「河村理論」は世界経済の視点から中国を分析するとき、非常にクリアに分析できます。

私は、中国経済分析にあたって河村先生の理論を有効に活用していきたいと思います。


●前田芳弘

【質問】 ①  金融の中心が英国だったとき手数料収入で潤っていたという話を聞いたときがあるが、 パックスアメリカーナの米国もそうなのか。

②      グローバリゼーションに備えよと小泉・竹中氏が非正規労働体制を推し進めたが、米国だけでなく日本も格差の増大を生んだ。しかし、国民の反応は大いに異なるように見える。資本主義の変質とどう関連付ければよいか。

【感想】エビデンスとなる資料に基づく話でとても興味深く話がうかがえた。

【進行について】 担当者は大変でしょうが、今のままでよく、特に要望はありません。


●矢沢国光

質疑の中で、第一次世界大戦後のインフレ基調について質問した。河村氏は「パクス・アメリカーナ」段階規定が、「景気循環」の態様の変化にもとずく、とした。そして、「景気循環」の態様の変化のメルクマールとして、「第一次世界大戦後のインフレ基調」を挙げた。

こうした説明を聞くのは(河村氏の本を読んではいたが見落としていて)初めてだった。

改めて河村氏の『パクス・アメリカーナの形成』を読んでみると、スライドと同じデフレーター変化率の図があった。




そして河村氏は「戦後アメリカの蓄積体制の成立は、1930年代のニュー・ディール期ではなく、(1937年恐慌からの回復も可能にした)1941年以降の戦時経済の展開とその(戦後初期の)再転換によって確立した」とする。

そして、あらためてデフレーター変化率の図を見ると、1941年の戦時経済の展開以降は、インフレ率がプラスの範囲で上下している。物価上昇がずっと続いているのだ。

そして、戦後の成長期にはインフレ率は低いが、欧日の経済回復によりアメリカの経常赤字が増えるにしたがって、インフレ率が高まる。1971年金ドル交換停止(ニクソンショック)以降の1979―1980年は年率13%もの高インフレとなり、有名なボルカー連銀議長のインフレ退治となる。

こうした「戦時経済」以降のインフレ基調は、なぜ生じたのか。河村氏は、「戦時財政支出による軍需生産→軍需産業に入った所得の戦時財政への吸収」という財政があったという。財政は赤字であるが、1941年後半以降、巨額の財政赤字を賄うために公債を発行した。これは連銀による銀行への準備の供給によって可能となった。

1941年3月に始まるレンドリースも、かたちはイギリスなど連合国への軍事援助であるが、実質的には、(貸付ではなく)アメリカの国防支出であった。

アメリカの財政支出は、1944、45年度には、戦前の1938年度の10倍以上に膨張したが(59頁)、増税による個人所得・法人所得(企業の戦時利潤)の財政への回収と公債の大量発行でインフレを抑制した。

こうした[レンドリースのような他国も巻き込んだ]戦時経済による巨額の財政赤字と公債発行による財政赤字の穴埋めは、アメリカの突出した工業生産力によって可能となった。

そして、戦時経済を回す国際決済機構としても、ポンドに代わってドルが決済通貨となってニューヨークに還流するシステムが形成され、これが第二次大戦後のブレトンウッズ通貨体制(IMFとGATT)になる。

さらに、この「戦時経済」の延長としての1950-60年代の「持続的成長期」にパクス・アメリカーナが確立した、と河村氏は言う。

この時期の国際資金循環は、冷戦体制の形成とかかわって、「西側」諸国へのマーシャル援助をはじめとするドルの供給と輸出によるドルの回収であった。

そして、河村氏は、「1970年代半ばを画期としてパックス・アメリカーナ段階の変質局面への転換」「不安定成長・グローバル資本主義の展開(Phse1)とその変容(Phase2))に入った、と言う。

「パックス・アメリカーナ段階の変質局面」では、ニクソン・ショックによる金ドル交換停止によって変動相場制へと移行する。1980-81年にはインフレが高進し、連銀のボルカー議長が金価格の上昇(ドル価値の下落)を食い止めるために大ナタを振るう。アメリカは、1986年プラザ合意で欧日に対してドル切り下げを強要し、EUはこれを受けてユーロ圏の創出に向かい、日本は「日米経済協議」でアメリカの言うままになる。軍事外交の枠組みがドル基軸通貨体制を支える。

河村氏は、こうしたアメリカを軸とする世界資本主義の段階論的規定の基本に景気循環の態様を置く。これは、「資本の運動法則」としての原理論と「資本の世界史的発展過程」としての段階論を統一する方法として、大いに納得できる。

河村氏も言うように、「資本の運動」には、①貨幣資本の循環=財務の視点,②生産資本の循環の視点=工場(ないしは現場)の視点,③商品資本の循環(営業の視点)の統合的運動体として「企業論]の3側面があるが、世界資本主義としてのアメリカ資本主義をとらえるためには、①貨幣資本の循環、つまり「基軸通貨ドル」の国際循環の力学が河村氏の言う「景気循環論」的な段階論的規定の基本になるのではないか。

そうした点からいうと、1941年以降の「戦時経済」における「基軸通貨ドル」も、1950-60年代の「持続的成長期」の「基軸通貨ドル」も、かつてのイギリス金本位制が国際貿易の決済通貨として機能していた国際金本位制ではない。アメリカ産業の供給をアメリカの財政支出が対外的に散布するドル資金が購入する、という冷戦体制の政治軍事的枠組みを基本とし、その中で回復発展した欧日の工業製品のアメリカ市場への輸出が増えるにしたがって、赤字ドルの金への交換要求が高まり、1971年ニクソン・ショックとなる。

河村氏は、1970年代半ば以降の変動相場制への移行を「パックス・アメリカーナ段階の変質局面へ転換」「不安定成長・グローバル資本主義の展開(Phse1)とその変容(Phase2)」ととらえる。

河村氏の立論がわかりにくいのは、「構造化」にあるのではないか。「新帝国循環」も、以下の【Ⅱから引用】のように書いてあれば、理解しやすい。「『グローバル・シティ』機能と都市空間の発展」のように構造化されると、肝心の「景気循環」の力学が見えにくくなる。[そもそも、サッセンのグローバル都市論がどうしてここに出てくるのか。かえって、河村氏のパクス・アメリカーナ論をわかりにくくしているのではないか、というのが私の感想です。]


【Ⅱから引用】パックス・アメリカーナ段階の全盛期(1950年代・60年代)に「持続的成長」として現れたアメリカを中心とする資本蓄積の構造とメカニズムを構成していたシステマティックな制度連関が解体されたことに対応し,企業・金融の原理的ロジック―「利潤原理」―が戦後システムの国内的「制度構造」から切り離され,むき出しの形でグローバル(クロスボーダー)に作用し,既存システムに大きな変容圧力と転換をもたらす関係を主要なダイナミズムとするものであった。アメリカの動向を最大の震源とし,企業・金融・情報のグローバル化と政府機能の新自由主義的転換を二大経路とするそうしたダイナミズムが,ヨーロッパ,日本,その他世界を直接・間接に巻き込んで,グローバルな規模で作用し,経済・社会・政治さらには思想・文化などあらゆる局面で,グローバルな規模で,制度変容と既存システムの転換をもたらし,国民国家・国民経済枠組みの相対化・流動化を伴いながら,国際協定の複雑な動向とも連動し,世界的に産業集積・国際分業関係の変化を促し,国際的な資金循環の構造を変容させ,その結果,国際通貨・金融システムにも大きな転換を生じることになったものである。

とりわけ,アメリカでは企業・金融・情報のグローバル化の世界的展開を通じて,巨額の財・サービス輸入を中心として出現した膨大な経常収支赤字が構造的に定着し,国際基軸通貨ドルにより国際決済が集中するグローバル金融センター・ニューヨークに,膨大なドル資金を累積させ,「レバレジッド・ファイナンス」の膨張を通じて,デリバティブと金融工学を駆使した投機操作を含む金融膨張を拡大することになった。こうして,「ファイナンシャライゼーション」と金融市場の「カジノ化」が大きく進行し,同時に,ニューヨークを中心とするこうした金融膨張のメカニズムを拡大の基本「エンジン」として,グローバルな規模で投資と資金移動が拡大しながら,アメリカを軸とする世界的資金循環構造(「新帝国循環」)が形成され,グローバルに経済成長を加速する新たな資本蓄積の構造とメカニズムとして「グローバル成長連関」が出現したととらえることができる。【引用終わり】


高原浩之

骨幹は、「資本主義の発展段階の再構成―パックス・ブリタニカ段階とパックス・アメリカーナ段階」(資料5p)と理解しました(6pで「資本主義の歴史的展開」と表示も)。

(1)覇権論は「現状分析」「段階論」=資本蓄積論は変えられない

資本主義は、国家(身分制の封建制国家に対して「国民国家」)の下、「国民経済」として存在。世界資本主義は、各国資本主義が覇権国を基軸に結びついて成立。覇権論は「現状分析」の重要な指標でしょう。「段階論」をそれに替えるべきではないでしょう。

「段階論」は、①商人資本→②産業資本→③金融資本と、やはり資本蓄積様式を指標にすべきでしょう。金融資本は、剰余価値を生産し搾取する産業資本を土台として成立し、「自己増殖する価値」である資本の完成形であり、圧倒的に長い歴史段階でしょう。

イギリス覇権はほぼ産業資本の段階に対応し、金融資本の段階になるとアメリカ覇権に移行した。だから、イギリス覇権とアメリカ覇権では、「グローバル成長連関」つまり世界的な資本蓄積のシステムに差異があるということでしょう。

帝国主義は、産業資本にも封建制や奴隷制にも存在した。そういう意味で、金融資本の段階を帝国主義段階と規定するのは適切ではないでしょう。

(2)アメリカ覇権の「変質局面」は米国と中国の覇権闘争それが「現状分析」の中心

資料75pでは、「中国の『挑戦』とパックス・アメリカーナの変質への展望」が、「二度の世界大戦を経てパックス・ブリタニカ段階からパックス・アメリカーナ段階に転換」したという歴史と対比して分析されています。

ここの歴史は整理すれば「二重の移行」でしょう。「段階論」的にはイギリス・フランス型の古い産業資本から、アメリカ・ドイツ型の新しい金融資本へ移行(レーニン「帝国主義論」)。「現状分析」的には、イギリスの覇権にドイツが挑戦し覇権はアメリカに移行。

その後者と対比して、中国に挑戦されているアメリカ覇権を分析し、「確立期」と「変質局面Phase1」と「Phase2」と区分している。その区分に疑問があります。

①「変質局面Phase1」が疑問です。米国をはじめ「北」の先発資本主義は戦後高度成長の後、資本輸出=資本主義の「移植」で「南」に向かった。世界システムにおける中心-周辺の関係を、工業-資源から金融-工業へ再編した。グローバリズムが始まって大体20世紀いっぱいまで、これはアメリカ帝国主義の覇権「確立」でしょう。同時に、中国・ベトナムをはじめ「南」の民族解放闘争は勝利の後、社会主義ではなく資本主義へ向かった。ソ連帝国主義は対米・覇権闘争に敗北して崩壊した。アメリカの一極支配「確立」でしょう。

②アメリカ覇権の「変質局面Phase2」という規定も疑問です。グローバリズムが進行し21世紀になると、かつて潜在的であった趨勢が顕在化して拡大している。「南」の後発資本主義は、二つの国家資本主義(韓国・台湾型と中国・ベトナム型)で、「移植」を超えて内在的に成長し発展している。中国が、後発帝国主義として登場し、アメリカの覇権に挑戦している。「現状分析」的には、米中覇権闘争と規定すべきでしょう。(おわり)(2024.02.03)


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